甘酸っぱい毎日を夢見てる、シェアハウスで暮らしてる、フリーランスフォトグラファーの初老男子、なにかと苦じょっぱくなりがちです。なまえはかおたんです。
まだまだ暑い日もありますが、夏が過ぎ秋の訪れを感じずにはいられない今日この頃、夏の終わりはいつもなんだかちょっぴり切ない気持ちになります。ギラギラの太陽に照らされた楽しかった夏の日が、少しずつ訪れる秋の気配と入れ替わり過ぎ行く様に別れの切なさを感じているのかもしれません。季節は巡ってまた来年になれば夏は来る。とはいえ僕が100年生きるとして、たったの100回しか経験出来ない100分の1回の夏、そう思うと別れの切なさにも納得がいきます。
そんな別れも寂しいですが、次の季節の気配に感じる高揚感をどうして抑えることが出来るでしょうか。いや出来ません。早速履いた秋っぽい長ズボンが暑過ぎて、半日も経たずに着替えるくらいに出来ません。高揚感と切なさのはざまで僕は、とりあえず半ズボンと元サヤすることにしました。
巡る季節の中でも、波佐見焼のある暮らしの中に甘酸っぱい毎日を探してみたいと思います。もしかしたら、あなたの毎日も甘酸っぱくなるかも知れません。
2019年にお仕事で初めてニュージーランドを訪れたときに出会ったとても魅惑的な飲み物があります。エスプレッソを使ったコーヒードリンクのバリエーションの一つ、フラットホワイトです。注文してみると名前の通り、マグカップに注がれた白い平面が提供されました。白い平面の正体は、フォームミルクです。白い平面にはラテアートを施してあったりもします。お店や入れる人によって若干のレシピの違いはあるようですが、エスプレッソにスチームミルクとフォームミルクを合わせて作るラテの兄弟のような飲み物です。異国の地で初めて体験した、ラテと比べてちょっぴりビターで大人なフレイバーをえらく気に入ってしまい、それ以来すっかりフラホワの虜です。
異国の地への旅はいつでもどこでもあらゆるタイプの甘酸っぱい思い出を作り放題のスペシャルなイベントですが、食いしん坊な僕は食べ物や飲み物の思い出作りを欠かしません。
今回はその魅惑のフラットホワイトを、いつもお仕事でお邪魔しているシェアオフィスのラウンジで友人のコーヒーショップが出張提供していると聞きつけて、HEAVEN&EARTH そばちょこ を持参して入れてもらいに行ってきました。
第一回では自分で入れたカフェオレも撮影しているので、同じコーヒードリンクとしてプロの入れたものと完成度を比べていただくのも面白いかと思います。
マルヒロさんのそばちょこは、めちゃくちゃ色々な種類がありますが、どれも基本的に同じ型の同じサイズで全てスタッキングすることが可能です。スタッキング出来て小ぶりなので、今回みたいに重ねて手拭いなんかに包んでおうちの外にも気軽に持ち出しちゃったりします。
外でもね おきにのコップで 飲みたいじゃん
このそばちょこにラテアート、絶対キマると思っていましたが、柄 on 柄のマリアージュ大成功です。
片手にすっぽり収まるサイズのそばちょこ、うちでは撮影に来ていただいたスタッフの方々に飲み物を出す時に重宝しています。人数分重ねてキッチンから運んで、おっきいポットでいれたお茶なんかをちゃちゃっと注いで配ります。サイズが大きすぎないから人数が多くてもポット一回で結構な人数分をいれられます。配られられた方も多すぎないから遠慮なく、フレッシュなまま飲める。そんな気軽さがすごくいいです。
友人と共にするフラットホワイトは格別です。
今日は出張先で入れていただいたフラホワですが、お店で頂くものと変わらずとっても美味しいです。
場所や機材を選ばない職人の技を感じます。職人技も、僕の大好物の一つです。
HEAVEN&EARTH そばちょこ は天と地をテーマにした4つのそばちょこです。一つ目は地層をイメージしたSTRATUMです。この柄は第三回でも紹介した上絵転写の技術を使って作られていています。
赤い釉薬に赤白青の模様の転写紙が載っています。よく見ると載っている柄には貫入と呼ばれるヒビ模様が入っています。転写紙にひび割れ模様が書いてあるのかと思ったのですが、これは焼成時に動きやすい釉薬を使用して、釉薬と転写紙の動きに差を生じさせることで転写紙上に貫入を入れているそうです。
計算尽くしの釉薬プレート大移動に転写紙大陸が大荒れです。
指で弾くとチンとなるこのそばちょこは天草磁器です。天草磁器には特上・えり上・えり中・えり下という分類があり、特上は最上級の白さを求めて作られています。えり上・えり中・えり下の順で土の中の鉄分の割合が多くなり、雑味がまします。このストレイタムはえり下の天草磁器です。上とか下という言葉を聞くと、とりあえず上を選びたくなる僕ですが、作りたいやきものの雰囲気に合わせて土や釉薬を選ぶ、組み合わせで新しいものも作り出す、そんな職人のたちの知識と技術の層に興味深々です。
二つ目はCLOUD (クラウド)です。お空に浮かんだ雲ではなく、銀河に浮かんだ星雲の様な柄のそばちょこです。
指で弾くとコンとなる、このシリーズで唯一黒泥でできた陶器の商品です。
黒くざらざらとした素地に光沢のある黒、マットなグレーの柄が立体的に載っています。
このシリーズを通して思うことなのですが、一見転写紙で出来た柄に見えないのです。
層をなす色や、様々な質感の一体感がそれを感じさせています。
それらはテキスタイルデザインをする際に使われるテクニック「柄の境目をあいまいにする技術」をこの転写紙のデザインに応用することで実現させています。
元々テキスタイルデザイナーとしてお仕事をされていた方がこちらのシリーズのデザインを担当されているそうです。
布からやきものにデザインするものが変わっても、培った技術やセンスを応用して新しいものを作っていく。ここにも層をなす職人技がありました。
三つ目はROCK(ロック)です。天草磁器のえり下の生地は、鉄分を多く含んでいて十割蕎麦の様な雑味のある色味と少しザラザラとした質感があります。こちらは無釉の生地に転写紙を貼って作った柄ですが、無釉の生地の部分も色味の一部として表現に参加しています。ただでさえ楽しさ無限大のデザインなのに、生地までそれに取り込もうなんて、とっても欲張りさんなデザインです。十割蕎麦は素材の味を最大限に活かした蕎麦ですが、このそばちょこはえり下の生地を最大限に活かしたデザインのそばちょこです。転写紙とは思えない一体感はまるで火成岩を削り出して作ったかの様です。
最後四つ目はEARTH(アース)です。宇宙から見た地球をイメージしていて海、森、砂、雲を連想させるプリントを施してあると商品説明に書いてあります。どれどれ、と見てみるとマジで旅する5秒前です。ただ青いかっこいいデザインに見えていたものが、あっという間に世界地図にしか見えなくなりました。世界地図はそばちょこの外側にも内側にもデザインされています。いくらリアルな転写紙の柄でも外側だけなら一眼でそれと気がつくはず。内側まで同じ柄がきれいにデザインされていることでうっかり生地に何か練り込んであるのかなとか、手書きの柄なのかなとか、このシリーズの柄が転写紙と思えない理由の一つはそこにあると気がつきました。
波佐見焼は色々な作業を分業で作るやきものです。やきものの型を作る型屋、生地を作る生地屋、土を扱う陶土屋、やきものを窯で焼く窯元、転写紙を作る上絵屋、できたやきものを扱う産地問屋など、その中に転写紙を貼ることを専門にする工房もあります。
そばちょこの内側に転写紙を貼るのはものすごく難しい作業で、これができる工房はごく限られた数しかありません。内側にずれない様に転写紙を貼る、作業を想像すると解けない知恵の輪を想像した時と同じむず痒さを感じます。
天と地をイメージしたこのそばちょこの柄を一個づつ掘り下げてみたら、転写紙に釉薬に素材の組み合わせにと、天から地ほどの幾重にも重なった職人技の層を見つけられました。
そんな層のことを考えていたらティラミスとかミルフィーユとか、のり弁とか層をなす食べ物をこのそばちょこで食べてみたくなりました。きっと美味しくいただけるに違いありません。
多彩な層が複雑に巧妙に折り重なるとこういう素敵な商品が出来上がるんだなと、自分のお仕事にも素敵な層が作れる様に精進しようと思うかおたんなのでした。