給湯流名物その1 まるこ茶碗

2022.09.09カルチャー

※掲載されている茶碗は伊藤さんのコレクションです。販売はしておりません。

まるこ 給湯流茶道 伊藤洋志

忙しいビジネスパーソンのための茶道

「元ご飯茶碗が国宝になっている」と聞いてみなさんは信じられるでしょうか。

本連載は題して「給湯流茶道 アニメ茶碗の旅」。今回が第一回目となります。

この連載は、「昭和レトロ」グッズとして扱われている子供向けのご飯茶碗、アニメ茶碗を茶器の名物として紹介していく連載です。

アニメ茶碗を茶道の名物として扱う、などという話は聞いたことがないかもしれません。私たち給湯流茶道ではアニメ茶碗を至高の茶器として大事にしています。

「給湯流?」といぶかしく思われる方もおられるでしょうから僭越ながらご紹介申し上げます!2010年に設立された流派で、コンセプトは「忙しいビジネスパーソンのための茶道」でございます。

茶道というと仕事とは縁遠い習い事のイメージがあるかもしれません。しかし!歴史を振り返るとかつて茶道に熱中したのは戦乱の世に日々の業務に奮闘していた戦国武将でした。今日の味方は明日の敵(寝返り)ということも珍しくない厳しい仕事環境の中で彼らは合戦の合間にお茶を点てて呑み、名物茶碗を愛でて会話し交流を図り、ときにはハードな交渉を行っておりました。

これは現代で言えば厳しい予算と業績目標、あるいは朝のニュースで知らされる勤務先の買収、M&Aに翻弄されるビジネスパーソンと重なる…!

そんな着想を得た家元・谷田半休(たにだはんきゅう)の発案により10年以上前に結成されたのが私たち給湯流茶道です。

名前の通り給湯室で茶会を行うグループです(※参考資料①)。私はその一員の伊藤飛石連休※1と申します。本業は著述業※2で、ほかに農家業やモンゴル遊牧キャンプを企画運営したりする自営業を生業としております。

※1.茶道の流派では、一定期間の稽古を終えると茶名がもらえる。給湯流茶道では、「休」という字を与える習わし。ほか、半休(家元)、全休、無休、振休など。
※2.「ナリワイをつくる-人生を盗まれない働き方」、「イドコロをつくる-乱世で正気を失わない暮らし方」(ともに東京書籍)など

そもそもなぜ給湯室で抹茶をたてるのか?

給湯流茶道という名前の由来は、家元の原体験にあります。現存する歴史的な茶室に、戦国時代の茶人、千利休の傑作と評されている「待庵」があります。わずか二畳しかありません。

当時旅行好きの一会社員だった家元(今でも一会社員ですが)が初めて見た際に「あまりに狭い…会社の給湯室と同じサイズだ」と衝撃を受け、試しに狭い給湯室を茶室に見立ててヨガマットを敷き床に座って茶会を開いたことが、給湯流茶道のはじまりです。

ただの狭い給湯室でも床に座るだけで、「これまでとは違う景色が広る、これは面白い!」と一気に盛り上がりグループ結成となったのでありました。

その後は、パワフルな家元のスカウト活動によりメンバーが増加。各地の企業の給湯室や、さらにはオフィスを飛び出し、会社員の街の休憩所たる純喫茶や劇場など全国各地で茶会を開いている次第です。給湯流茶道として魅力的と思える空間でその時々に適した掛け軸を用意し、茶器を愛で会話を楽しみ、殺伐とした現代社会の中で気力を養う場を出現させています。

掛け軸といっても、花鳥風月的な四季に止まらず、業務の中で発生したサラリーパーソンの諸行無常を感じさせる「書類」を掛けるなど毎回テーマに合致する紙を掲示します。現代のサラリーパーソンのコミュニケーションの媒介になるようなものを選んでいる次第です。

ところで、冒頭の元ご飯茶碗の国宝というのは「井戸茶碗(銘:喜左衛門)」(※参考資料②)という茶器です。これは、朝鮮半島の労働者が日常で使ったご飯茶碗という説がある類のご飯茶碗なのですが、釉薬の割れ(カイラギと言われる)などの絶妙なブレがあり、桃山時代にその風情が良いとされ名物として重視されました。茶碗一個で城一個分の価値があったという話もあるそうです。

同じく量産品であった昭和のアニメ茶碗にも、スタンプがズレていたり画材が飛んだのか点が落ちていたり魅力的な不完全さを見出すことができます。題材になっているアニメキャラクターも、往年の名作など時代背景も含めて思いを馳せることができ、見れば見るほど味わい深いものがあります。

アニメ茶器は会話のきっかけが豊富にあるところも素晴らしい。連載はそんな給湯流茶道コレクションの名物を一個一個紹介してまいりたいと思います。

一回目はこちら、みなさんご存知の「ちびまる子ちゃん」のアニメ茶碗(※参考資料③)をお見せして締めたいと思います。

まるこ 給湯流茶道 伊藤洋志
(撮影:岸本咲子)

ギャグ漫画といえば、笑わそうとして笑わせるネタを展開するものが主流だったところ、日常エッセイの中で思わず笑ってしまう自虐コメント、天の声からのツッコミ、主人公なのにめんどくさがり、と多方面に斬新な作風にありながらお茶の間に受け入れられた作品。画期的だったと言えるかと思います。

特に漫画の世界では不条理系ギャグと大阪的なボケとツッコミの笑いが主流の中、東西の中間地点の静岡県を舞台にした笑いです。これが国民的作品として親しまれたことには今でも考察の余地があるように思います。東京の祖先、江戸を築いた徳川家康の出身地でもある静岡が舞台なのは興味深く感じます。

参考資料

①給湯室茶会

まるこ 給湯流茶道 伊藤洋志
(撮影:福羅広幸)

給湯流茶道での茶会は給湯室で行われる。抹茶を飲んだらすぐ戦場(会議や外回り)に行かねばならない現代の「戦国武将」。残念無念、炭をおこす時間がないので電気ポットを使う。当時は座り方は正座ではなく立膝などだったという説もあることから給湯流ではあぐらも可。

②井戸茶碗

まるこ 給湯流茶道 伊藤洋志 井戸茶碗
まるこ 給湯流茶道 伊藤洋志 井戸茶碗
(出典:ColBase)

日常雑器として無名の職人により量産されていたと考えられている井戸茶碗。高台にカイラギと言われる縮れがあり、現地では失敗と言えるかもしれないがこれを日本では重視した。
大井戸茶碗 佐野井戸(制作地:朝鮮 時代:朝鮮時代・16世紀)

大井戸茶碗 佐野井戸 画像データ一式
https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/TG-2707?locale=ja
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/201/312

③まるこ茶碗

まるこ 給湯流茶道 伊藤洋志
(撮影:岸本咲子)

給湯流茶道メンバーが幼少期に使っていたご飯茶碗。日々のサラリーマン的諸行無常案件もユーモアで昇華せよと、まるこから呼びかけているよう。給湯流の名物。

給湯流茶道 アニメ茶碗 伊藤洋志 マルヒロオンラインショップ 伊藤飛石連休 アルプスの少女ハイジ

伊藤洋志(茶名.飛石連休)

仕事づくりレーベル「ナリワイ」代表。シェアアトリエの運営や「モンゴル武者修行」、「遊撃農家」などのナリワイに加え、野良着メーカーSAGYOのディレクターを務め、「全国床張り協会」といった、ナリワイのギルド的団体運営等の活動も行う。

執筆活動も行っており、新著に『イドコロをつくる乱世で正気を失わないための暮らし方』(東京書籍)がある。ほか『ナリワイをつくる』『小商いのはじめかた』『フルサトをつくる』(すべて東京書籍)を出版。

給湯流公式サイト:http://www.910ryu.com/
Twitter(家元):https://twitter.com/910ryu
Instagram(家元):https://www.instagram.com/tanida_kyuto_ryu_tea_ceremony/
伊藤洋志個人:https://twitter.com/marugame

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