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第9回 「デルタ、ロボットの丘」

2022.07.25 (月)

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甘酸っぱい毎日を夢見てる、シェアハウスで暮らしてる、フリーランスフォトグラファーの初老男子、なにかと苦じょっぱくなりがちです。なまえはかおたんです。

先日お茶の撮影をしていた時に、取材先の方が用意して下さった湯呑みを見て編集者さんが貫入が素晴らしいとコメントしていました。貫入というのはやきものの表面、釉薬の層に入ったひび割れのことです。貫入は作為的に入れることもあれば、無作為に入ることもあります。無作為に出来たそのヒビは無限に様を変え続ける水面をずっと見ていたくなるような、いつまでもどこまでも観察していたくなる魅力に溢れています。人間関係にもやきものにもひび割れはいつだってhot topic なんです。しかし作為的に入れることもできるということは、作為的に入れないこともできるということです。偶然と必然、対極するひび割れ事情を紐解いて波佐見焼のある暮らしの中に甘酸っぱい毎日を探してみたいと思います。もしかしたら、あなたの毎日も甘酸っぱくなるかもしれません。

HIROPPAにはロボットの丘と呼ばれる場所があります。昭和生まれの僕にとって、ロボットといえば大きくて角張っていてとにかく強いイメージです。たまに合体します。だいたい無敵です。
そんな色眼鏡でHIROPPAを覗いてみれば、そこには灰色の大きな角張ったロボットがいるではありませんか。
カクカクとした色々な大きさの高低差も様々な立方体を組み合わせて出来たモルタル製のロボットが横たわっているかのような丘、それがロボットの丘です。よく見ると表面がひび割れた模様に覆われています。まるでやきものに見られる貫入のようです。このひび割れ模様は、当初塗装して仕上げる予定だったロボットの丘を、下地剤を塗った後に偶然現れた模様を良しとし、そのまま活かして完成にしたものです。やきもの屋さんの公園にふさわしい遊び心です。無敵のはずのロボットが傷つき倒れる表現は、嫌いじゃないむしろ好みの展開です。

このひび割れ模様が出来た仕組みはきっと貫入の入る仕組みと似ているのではないかと思います。貫入はやきものを焼成するときに、生地と釉薬の縮む大きさが違うことによって生まれます。やきものは焼いて完成するまでに必ず10〜15パーセントほど収縮します。その際に生地より大きく縮んだ釉薬がひび割れることによってappear するのが貫入です。
ロボットの丘のひび割れ模様はきっと、固まって動かなくなったモルタルの上で、均一に塗られた透明の下地剤が乾燥して縮んで割れることで出来た模様なのかと思います。天然物の無作為のひび割れ模様です。

では、作為的に貫入を入れないとは何なのか。前回に引き続きHIROPPAのフラッグシップショップで働く、会いに行ける店員さんの光くんと一緒に考えてみようと思います。

ロボットの丘で跳ね回ったひかるくんは腹ペコです。「PL4YDELTA SEASON 01 プレート ミニ」にドーナツを「PL4YDELTA SEASON 01 ブロックマグ」でコーヒーを、ロボットの丘で おやつタイム頂きます。この PL4YDELTA シリーズはロボットの丘もデザインした Boris Tellegen / DELTAさんによるデザインです。ロボットの丘と同じく、80年代のロボット 感のあるカクカクしたデザインがかっこいいです。

釉薬には生地をガラスの層でコーティングして守る効果があります。貫入の入ったやきものは、とても美しいですがその反面、貫入から水分や油分が入り込んでシミができてしまったりとデメリットもあります。ちょっぴりsensitiveです。つまり貫入を入れないということは超無敵なやきものを作るということになります。

水分や油分に全方位的に強いです。多少手荒に扱っても動じないやきものになります。ずぼらな僕にはうってつけです。ギザギザハートには子守唄が必要です。

口当たりもとってもなめらかです。pure pure lips 気持ちは yesです。

貫入が生地と釉薬の縮む大きさの違いで生まれるなら、その差をなくせば貫入のないやきものが作れます。生地と釉薬の収縮率を同じに合わせられれば良いのです。パンがなければケーキを食べれば良いのです。

簡単に言ってしまいましたが、収縮率を合わせられたのは長年研究を積み重ねてきたやきものの世界の技術力の向上あってのことでした。そして貫入のないやきものを作るとき、釉薬と土の相性は大丈夫か、何年経っても割れないかなどテストする収縮率試験をします。
貫入のないやきものはすなわち、貫入を不良品とみなすやきものとなります。あんなにありがたがってたのに手のひら返しです。テストを合格したやきものは、ひびのない綺麗なツルツルのガラス層に守られてコーヒーの染みも入り込む隙がありません。

繊細で独特な貫入を楽しめるやきものに酔いしれたい時もあれば、多少雑に扱ってもへっちゃらな丈夫なやきものに身を委ねたい時もあります。TPOに合わせて適切なやきものを使い分けられることが超無敵な大人への階段を登ることになるかもしれません。

ひび割れた僕の心に染み込む、光くんの必殺のスマイルにまたもや財布の紐が緩むかおたんなのでした。超無敵な大人への階段はまだまだ続く。

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