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第6回 「古典技法概論I」

2022.02.18 (金)

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甘酸っぱい毎日を夢見てる、シェアハウスで暮らしてる、フリーランスフォトグラファーの初老男子、なにかと苦じょっぱくなりがちです。なまえはかおたんです。

先日10年近く前に実家から送られてきて以来放置し続けていた積み上げられたダンボールを整理しました。中身は昔の写真や手紙、アルバムでした。ただただ面倒臭いのと、あまり昔のことを振り返りたくないので放置し続けていました。見れば甘酸っぱさに包み込まれるのがわかっていたから。その過ぎる甘酸っぱさから逃げていたのかもしれません。とっ散らかった大量のファイルと抱えきれない甘酸っぱさを遂に解放して整理するときがきました。ただの大掃除です。そんな日常の一コマの中にも、波佐見焼のある暮らしの中に甘酸っぱい毎日を探してみたいと思います。もしかしたら、あなたの毎日も甘酸っぱくなるかもしれません。

ダンボールの中には僕が赤ん坊だった頃の写真から始まり、幼稚園の記録写真、小中高の学校の思い出、大学に入って写真を学び始めた頃の写真、就職してカメラマンを目指してアシスタントをしていた頃の写真まで自分でも忘れていた自分史が詰まっていました。今では写真を撮ることを生業として毎日色々なものを撮影していますが、こうして自分史の写真達を眺めていると写真の存在意義について改めて考えさせられます。その時にしかない瞬間の記録。意図して撮られたわけでない背景の時代感。撮ったその時は何も感じていなかった事にすら、長い年月を経た今だからこそ一々甘酸っぱさを感じてしまいます。例えばマルヒロさんのwebサイト用に僕が撮った商品写真でさえ、年月が経てばそこに時代背景や人間関係、色々な思い出が見出せるようになります。写真を撮るとはそういう瞬間を撮り、残すという事なのだと。僕の場合お仕事で撮っている分余計にクオリティやコストに意識が集中してしまいがちですが、お仕事で撮っているからこそ目で見える物だけでなく、その時その瞬間を捉えていくことが出来たらきっともっと素敵な写真になるのだろうと思いました。

整理した写真の中に大学生の時に課題で作った写真が入っていました。ゴム印画という古典技法で作った写真です。アラビアゴム、顔料、重クロム酸カリウムを混ぜた薬剤を塗り乾かした水彩画用紙にモノクロのネガフィルムを密着させて、太陽光で感光させ冷水で現像する写真です。画用紙に薬剤を自分の手で塗ったり、校舎の外に出て太陽光で感光させてプリントを作る手作業感がとても楽しかったのを覚えています。現代のデジタル写真は、スマートフォンでお手軽にどれだけ拡大してもシャープに見える写真が撮れますが、このゴム印画は全然シャープに見えないし、なんなら細かいところがなんだか全然わからなくなってしまいすらするけれど、それはそれで味わいのある表現方法に思えます。デジタル写真が主流の現代に、フィルムの写真に魅力を見出す人がいるように、今ではあまり使われなくなった技法には、今の技法にはない魅力が詰まっています。意図して作られたわけではない技法の時代感。それを楽しむことは意外とどんな世界にも溢れているのではないでしょうか。今回はそんな技法が使われたマルヒロさんのやきもので、ヤッピーな友人宅でお気に入りのオールドムービーを鑑賞しながらカウチポテトしてみました。

トルティーヤ ポテトじゃないよ コーンだよ

手土産にトルティーヤチップスとサルサソースを持参しました。友人はサルサソースにタバスコを入れています。Some Like It Hot なご様子。浴衣の色ともマッチしていてとっても可愛らしいこちらのやきものはマルヒロさんのFamily Collection プレートとブロックボウル ミニです。この組み合わせ、もうディップパーティするしかないです。

めちゃくちゃ美味そうですが、タバスコの酸味がめちゃくちゃ鼻をつきます。明らかに入れすぎです。本当にお熱いのがお好きなご様子です。やきものの呉須とサルサソースの赤の組み合わせもマッチしていて食欲をそそります。指で弾くとチンと鳴るこのやきものは磁器です。熱と圧をかけながら作られた生地は少々雑に扱っても大丈夫な強度を持っています。神経質なのに雑な僕にも大助かりな逸品です。

自宅で旅館の浴衣に半纏、プロジェクターでホームシアター、模様替え中だから部屋がとっ散らかってる、こういう事が意図しない背景の時代感として残っていくのかなと僕は思います。言っていてちょっと意味不明ですが、きっと合ってます。

このやきものは銅板転写という技法で絵付けされています。銅板転写はゴム印画と同じく古い種類の技法です。呉須の部分が薄かったり濃かったり、何とも言えないムラ感が味を出しています。一枚として同じムラは存在しません。第三回、第四回で紹介した上絵転写では計算されつしくた転写技術で思い通りの絵柄をやきものに再現していましたが、こちらの銅板転写は思い通りにならない印刷のにじみ、欠け、ズレ、ムラを最大限に活かしてデザインとのハーモニーを奏でています。

このデザインは世界中にタイポグラフィーの魅力を発信するアメリカのフォントデザイン会社、House Industries によるものです。かなりデザインされているのにお皿の上を全然邪魔しないのは、文字の体裁を整えるタイポグラフィーの技術ゆえなのでしょうか。やかましいのに品がある、こういうデザイン大好きです。

カウチポテトも食い尽くしたので、映画の後にはFamily Collection ブロックマグでコーヒーを嗜みます。

Coffee and Cigarettesです。僕はタバコは嗜みませんが、人がタバコをやっている姿を見ると、何だかセクシーだなと感じます。そして友人の部屋はこのやきもののデザインにも負けず劣らずやかましいのに品があると思いました。やかましいセンス、僕にはないので羨ましくも感じます。

何度観てもいいなと感じる映画のように、このやきものにも見ていて飽きない魅力を感じます。

意図して作られたわけではない技法の時代感、きっと日常の中に溶け込んで気がついていない、時が経つ事で起きる面白味を身近な世界にもっと探してみたくなるかおたんなのでした。

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