特集

MARUHIRO BOOK 10周年記念本

2022.09.30 (金)

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マルヒロが2010年に自社ブランド《HASAMI》と《馬場商店(現・BARBAR)》を立ち上げて、2020年でちょうど10周年を迎えました。
『MARUHIRO BOOK』は10周年を記念し、また自社ブランドを立ち上げてから10年余りに及ぶマルヒロの歩みをまとめたものです。アートディレクションにマルヒロのアートサイトKILLTIMEを手掛けた安田昂弘氏(CEKAI)、編集に桜井祐氏(TISSUE Inc.)を迎え、特殊な装丁の総頁数700頁を超える豪華な本が完成しました。

有限会社マルヒロは、長崎県波佐見町で400年の歴史を持つ波佐見焼の、食器やインテリア雑貨を企画・販売する陶磁器メーカーです。2010年に現・社長の馬場匡平が、自社ブランドを立ち上げて、2020年にちょうど10年の節目を迎えました。

2008年、デザインを学んだこともなく焼き物にも興味がなかった24歳の匡平は、父親からの申し入れで倒産寸前の家業に戻ります。しかし、そのまま翌年になっていよいよ会社が立ち行かなくなり、会社再建に向けて中川政七商店のコンサルティングを受けることに。コンサルティングを受けた匡平が、最初に手掛けたのが自社ブランド《HASAMI》の立ち上げでした。果たして、《HASAMI》のデビュー作であるSEASON 01シリーズは異例の大ヒットを記録。V字回復を遂げたマルヒロは、その後も波佐見焼メーカーという枠にとどまることなく成長と躍進を続け、2021年には私設公園HIROPPAをオープンするまでになりました。

本書は、馬場が2010年に《HASAMI》と《馬場商店(現・BARBAR)》を立ち上げて以降、10年余りに及ぶマルヒロの歩みをまとめたものです。その内容は、マルヒロの手掛けたアイテムやプロジェクトのアーカイブ写真集「BOOK01: Product and Artist Collaboration」と、マルヒロにまつわる用語を集めた事典「BOOK02: Encyclopedia of MARUHIRO」という大きく二つのパートで構成されています。

BOOK1(左) BOOK2(右)

マルヒロの手掛けたアイテムやプロジェクトのアーカイブ写真集

(撮影 山田薫氏他)

マルヒロにまつわる用語を集めた事典

【アートディレクションを手掛けた安田昂弘氏コメント】

Q) MARUHIRO BOOKのデザインや技法について教えてください。

マルヒロの膨大なアーカイブ、膨大な波佐見焼にまつわる情報をどうまとめ、「本」という形式に落とし込むのかを考えたとき、本自体も物質性の高いものにする必要があると考えました。

マルヒロの商品も、蕎麦猪口や器、皿など、基本を持ちつつ常に新しいあたえる印象を持っているので、そのブランドの本も、本の体裁をなしながら見たことのない形状、仕様である必要があると思い、今回のWスイス装を思いつきました。
生地を型に流し込み、素焼き、釉掛け、本焼成などの工程を経て波佐見焼が完成するように、マルヒロの積み上げてきた歴史、関わる町、人々。それらの情報を波佐見焼の工程のように流し込んで、その情報の塊を割って開くような必然的な本を目指しました。

外観、スリーブはクロス張りのグレーのストイックな印象。それを引き出した瞬間に、マルヒロの伝統を大事にしつつも生活を明るく彩るようなプロダクトの数々を想起させるよう、明るい色の紙で表紙を構成しました。
とにかく物質性にあふれる本にしたかったので、表周りの印刷は強めにカラー箔でデザインしました。

Q) MARUHIRO BOOKを作る上でこだわったところや難しかったところを教えてください。

なんと言っても情報量ですね笑。膨大な点数のアーカイブ写真(それ自体を初期から丁寧に継続して記録してあることにまず感動したのですが)と、辞書に掲載する内容を、紙の厚みとレイアウトをコントロールしながら、写真集と辞書を同じ厚みにするのが難しかったです。
あと単純に辞書をデザインするのは初めての経験だったので、アップデートされていく情報を楽しみにしつつも、何気なく今まで触れていた辞書のルールや体裁にそれをどう反映していくかに苦労しました。
デザインをした僕らだけでなく、写真を撮影されてきた山田さん、今回の本に携わったマルヒロの荒木さん、社員の皆さん、編集の桜井さん。チーム全員の「根性の塊の本」とも言えると思います。

Q) 製本、印刷、など本を作る上での技法について、難しかったところや特筆すべきことがあればお聞きしたいです。

特筆すべき点ですが、なんといっても今回の書籍のために考案されたWスイス装になります。
波佐見焼が石膏型に生地を流し込んで、パカっと割って生まれる事から、その動作を彷彿させるような製本方法としてWスイス装が考案されました。
さらにBOOK1とBOOK2の背はPURという透明な糊をむき出しにしたスケルトン装で陶器の持つ光沢感を演出しております。PURは通常の無線綴じの糊と比較して、糊の塗布量が薄くても強度が出るため、背の糊が厚くない分、開きがとても良いです。(篠原紙工 小原さん)

石膏型

ぱかっと開いた様子

背表紙

糊をむき出しにしたスケルトン装

Q)BOOK01の写真集の印刷について。通常写真の印刷には使わない印刷方法を採用しているとお聞きしました。その特徴について教えてください。

自分はジェットプリントは初めての試みで、篠原さんのご紹介もあり今回採用する運びとなりました。
今回は、ニュートラルな色味の背景での焼き物の写真を中心に構成されているので、オフセットでは色ブレが激しい、難易度の高くなりそうな印刷だったのですが、未体験のため懸念していた色の乗りも全く問題なく、むしろジェットプリントですることによって安定した色の調整とができたと思います。

Q) 最後に。MARUHIRO BOOKはどんな本だと思いますか?

僕は先に箔押し立ち会いの際に完成を味わったのですが、初見の感想は「俺たちはとんでもないものを作ってしまったかもしれない」でした。構想から二年。インパクトも含めつま先まで試行錯誤しながら、完成を迎えることができました。
マルヒロのアーカイブを担うのにふさわしい「物体」ができたと思っています。

【編集を手掛けた桜井祐氏コメント】

Q) MARUHIRO BOOKの編集について、難しかったところやこだわりなどあればお願いします。

「マルヒロの製品体系がバラバラで整理がクソ面倒」「収録項目がどんどん増えて終わりが見えない」など、書籍の編集に関する苦労はたくさんありました。
ただ、中でも大変だったのはBOOK 02巻末に所収の「MARUHIRO DATABASE」です。あまり目立たない存在ではあるのですが、実はコレ、BOOK 01の写真に写っているプロダクト(一部除く)に関する情報をまとめたページなんです。このデータベースを参照するだけで、どの部分にどんな技術や原料を使っているのか、どの部分をどの会社の誰が作ったのかなど、写真に写ったプロダクトに付随するあらゆる情報が分かります。BOOK 01とBOOK 02を繋ぐ、こだわりの箇所です。加えてもう一つ、すべての記事を書いてきた中で最も力を入れて書いたのは【後継者不足】の項目です。こちらもぜひ読んでみてください。

MARUHIRO DATEBASE

BOOK 02巻末に所収

後継者不足

Q) 今までたくさん本を作ってきた桜井さんにとってMAURHIRO BOOKはどんな本だと思いますか?

物としての存在感と中に詰まった情報量の均整が取れた本。

Q) マルヒロはどんな会社だと思いますか

「地元のツレがやってる」感じの会社。

【安田昂弘】
1985年生まれ。獅子座。名古屋市出身。多摩美術大学グラフィックデザイン学科を卒業後、2010年に株式会社ドラフトに入社。グラフィックデザインから映像、プロダクトデザイン、デジタルクリエイションまで、多岐にわたるプロジェクトに参加し、2015年同社より独立。クリエイティブアソシエーション「CEKAI」に所属し、アートディレクション、グラフィックデザインだけでなく、デジタル領域のデザインやプロダクト、映像監督、空間ディレクションなど幅広い分野でクリエイションをしている。国内外でのグラフィック作品の展示も積極的に行い、2019年には本人初となる作品集「GASBOOK36 Takahiro Yasuda」を発刊。人間のフィジカル的な視点とグラフィックのあり方を考察し多角的な活動を展開している。身長は189.5cm
https://yasudatakahiro.com/

【有限会社篠原紙工】
1974年創業。製造部分だけではなく、デザインの段階からクライアントと一緒に本やプロダクトを作り上げていく製本会社。
本質をさぐり、チーム力とチャレンジ精神で、話題となる本やプロダクトを日々世の中に送り出している。

【株式会社耕文社】 
東京品川にある印刷会社。
チラシ、ポスター、カタログからPOPなどの商業印刷を得意とする。

【藤原印刷株式会社】
1955年、一人の女性タイピストが創業した印刷会社。
1.仕上がりの良さが心に残る
2.真摯なやり取りが心に残る
という企業理念の「心刷」を大切に、あらゆる印刷物をつくることを丁寧にサポートし続ける。

【桜井祐】
TISSUE Inc. 共同設立者/編集者。1983年兵庫県生まれ。2008年大阪外国語大学大学院言語文化研究科言語社会専攻(博士前期課程)修了。2017年、東京と九州の2拠点でクリエイティブディレクションを中心に行うTISSUE Inc. / 出版レーベルTISSUE PAPERSを設立。紙・Web・空間など、幅広い領域において企画・編集・ディレクションを行う。主な仕事に世田谷文学館「植草甚一スクラップ・ブック展」展示・イベントディレクション、資生堂『花椿』編集アドバイザリー、長岡市「縄文オープンソースプロジェクト」ディレクション、大阪中之島美術館「Webサイト」編集ディレクションなど。近著に『新世代エディターズファイル 越境する編集ーデジタルからコミュニティ、行政まで』(2021年、BNN)がある。大阪芸術大学非常勤講師。
https://tissuepapers.stores.jp/

『MARUHIRO BOOK 2010-2020, 2021-』クレジット

  • アートディレクション – 安田昂弘(CEKAI)
  • デザイン – 高橋呂沙
  • 三木章弘
  • プロデューサー – 市村光治良(CEKAI)
  • 編集・文 – 桜井祐(TISSUE Inc.)、荒木里奈(マルヒロ)
  • 編集協力 – 新里李紗(マルヒロ)他
  • 写真 – 山田薫、長谷川健太 他
  • 印刷 – 藤原印刷株式会社、株式会社耕文社
  • 製本 – 有限会社篠原紙工
  • <発行>有限会社マルヒロ
    <発行日>2022年7月1日

    『MARUHIRO BOOK 2010-2020, 2021-』仕様

  • 版型 – 菊判変形
  • サイズ –  H22cm W13.8cm D7.5cm
  • 装丁 – ※本文ドイツ装+スケルトン装、Wスイス装仕上げ、三方背ケース入り
  • 重さ – 1.78kg
  • 頁数 – 720頁
  • 価格 – 22,000円(税込み)
  • 販売部数 – 限定100部
  • ※ドイツ装…本の表紙と裏表紙へ主に厚いボール紙を貼り付けたものを総じてドイツ装と云う。
    ※スケルトン装…装本の背をPURという透明な糊を使って綴じ、背表紙をつけず背がむき出しになっている製本のこと。透明な糊なので背から紙の層が見えることから篠原紙工で「スケルトン装」と名付けた。
    ※Wスイス装仕上げ…ハードカバーの表紙の両側に2つの本文を貼り付ける装丁。
    ※三方背ケース入り…「三方背ボックス」や「三方背ケース」と呼ばれることもあり、その名の通り書籍、CDやDVDを入れる外箱のことを表す用語。 入口が片側のみになっているケースが「三方背」と呼ばれている

    MARUHIRO BOOKの読み方

    MARUHIRO BOOKはBOOK 01とBOOK 02の2部構成です。両方を照らし合わせながら読み進めることでより深くマルヒロについて知ることができる構造になっています。

    プロジェクトアーカイブ写真集BOOK01

     MARUHIRO BOOKを開いて左側のオレンジ色の表紙がBOOK 01です。この約10年間、好奇心の赴くままにさまざまなものを作ってきたマルヒロ。「BOOK 01」は、それらマルヒロによる数々の創作を網羅した写真集です。

     紙面では、マルヒロからカメラマンの山田薫氏に依頼して撮りためていたプロダクト写真を中心に、アーティストとのコラボレーション作品や、初代マルヒロの直営店、公園HIROPPA、多目的空間OUCHI といった各種プロジェクトの写真を展開。アートディレクターの安田昂弘氏が構成・レイアウトを担当し、焼き物にとどまらないマルヒロの試みを、博物館に並ぶ展示品のようにじっくりと見ることができるアーカイブが完成しました。

    <HASAMI>

    SEASON01 2010-

    SEASON02 2011

    SEASON04 2014

    <BARBAR>

    いろは 2012-

    狛猫 2015

    蕎麦猪口大事典 色絵 2017-

    縁起物 色塗り布袋様貯金箱 2016

    <ものはら>

    くらわんかコレクション 2012

    青磁コレクション 2015

    <コラボアイテム>

    HASAM ×畑萬陶苑 2018

    BARBAR × Boris Tellegen 2018

    MARUHIRO × Evisen Skateboards 2018

    MARUHIRO × AIR 2019

    <OEM>

    TOWA CERAMICS / EKS.REI / WACKO MARIA / TIDE

    <旧直営店・HIROPPA・OUCHI>

    旧直営店 関祐介 2015

    HIROPPA DDAA 2021

    OUCHI DDAA 2021

    BOOK02 マルヒロに纏わる用語を集めた事典

    「BOOK 01」に掲載されたアイテム・プロジェクトにはそれぞれに深い背景があります。約400年にわたる波佐見焼の歴史、その歴史の中で生まれたさまざまな技法や素材、産地の職人、国内外の友人・コラボレーターとスタッフたち、音楽やカルチャーが大好きだったからこそ知ることができた豊かなイメージソース――。BOOK 02 では、そうした宇宙のように広がるカオティックな要素を、50音順の事典としてまとめました。

    カテゴリー一覧
    BOOK 02の事典にはマルヒロに纏わる様々なカテゴリーの要素が記載されています。内容は下記の通りです。

     取り上げた要素については、それぞれ該当する「BOOK 01」 のページを説明文内に記しているほか、巻末には「BOOK 02」の項目を一覧できる索引表や、「BOOK 01」と「BOOK 02」 の両方を照らし合わせることができるデータベースも付いています。

    事典
    全てのカテゴリーが一緒くたにあいうえお順に並んだカオティックな事典。まじめな内容から、ふざけた情報まで、ためになるようなならないような事柄がたくさん載っています。マルヒロと親交の深いアーティストの竹内俊太郎氏や三重野龍氏などのイラストも挿絵として随所に登場します。


    カテゴリーごとにあいうえお順に並んでいます。気になる単語を索引から検索することができます。

    データベース
    BOOK01に写真を掲載した焼き物に関する情報をまとめたデータベースです。

    このデータベースはすごく便利な機能で、写真集を見ながらどこの窯元が作ったものなのか、なんの釉薬を使っているのか、どんなイメージソースから作られたのかなどが一覧ですぐ見ることができます。また、記載されている単語は全て事典に載っている単語のため、詳しい意味については事典を読めば理解できます。編集者の桜井氏のこだわり抜いたポイントでのもあります。

    事典に出てくる一部のコラボレータについて馬場社長が悪い顔をしながら一言コメントを吐いています。さてこれは誰について言っているのでしょう。

    マルヒロの人物相関図大公開。先輩、後輩、友達、兄弟??
    マルヒロの幅広い交友関係がどのようにして生まれたか。これを見れば一目瞭然!!?

    こだわりのポイント満載のMARUHIRO BOOKぜひご覧になっていただきたい超豪華な一冊です。

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