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【連載】ものの出発点「原型師、金子さん」

2019.12.23 (月)

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佐賀県西有田町に工房を構える原型師の金子哲郎(かねこてつろう)さんは、18歳で窯業に携わり今年(令和元年)で55年になる。

最初は窯元に就職して、器のデザインをしながら自分の作品を作るために独学で原型や石膏型を作っていた。

その後45歳で起業し、原型師として多くの窯元からの依頼を受け70歳を超えた今も現役で活躍している。
現在は陶磁器に限らず鉄器など他産地の原型も作っているそうだ。

作業場に入ると棚に原型やケース型がところ狭しと並べられていた。

棚には過去に作った原型の他に、金子さんの作品や、旅仲間と年に一度訪れる世界各地で買ってきたもの、
貰ったもの、拾ったもの…様々な”モノ”に溢れていてカオス状態だが、不思議と統一感がある。

原型の隙間からくたびれたくまのぬいぐるみや猫たちが見つめていた。
枯れた植物の佇まいが好きで、枯れ枝やドライフラワーを飾っているそうだ。

ひとつひとつのモノがここへ来た経緯を話してくれた。

興味深かったのは、ありとあらゆるハンドルの原型が入った錆びたクッキー缶。
金子さんが手掛けた40年分のハンドルが詰まっていた。
作った原型への愛情が感じられ、あたたかい気持ちになる。

原型の仕事が無い時も、何かしら作っているという。手を動かして作ることが自分の性にとても合っているらしい。

金子さんの作品を色々と見せてもらった。

その内の一つが、昔作っていたという青いイヤープレート。広島の原爆ドームの前でベンチに腰掛ける幸せそうな家族のモチーフでとてもきれいだった。

田んぼに囲まれた日本家屋の工房で出来たとは思えない、ヨーロッパの絵本から出てきたような洗練されたデザイン。
原爆ドームの窓の奥行や、凸になった部分は青い釉薬が薄くなり白く見える部分の使い方など、釉薬の溜まりを計算した彫刻の技術にとても驚いた。

もう一つは鳥や蛇や花をモチーフにしたタイル。

イヤープレートとはまた違って、力強く民芸的な雰囲気で南米を感じさせるデザインだ。
今はこちらのスタイルにはまっているという。

作る事を心から楽しんでいるハイカラなおじいちゃんだと思った。

そもそも原型師とはどういう仕事なのかというと、

商品を量産する際に使用する「型」を作る為の大元になる形、商品が生産ラインに乗るための一番最初の形だ。

原型を作るにあたって、その形が量産に耐えうるかどうか、その後の工程や、作業効率も含めて考えなければならない。

焼き物は自然の素材でできている。
成形方法、釉薬の種類、窯の温度、生地の厚みや条件によって焼き上がりに微妙な差が出てくる。
商品が完成するまでのいくつもの繊細な工程を想定しながら形を削り出していく、神経を使う仕事だ。

金子さんは、原型を量産の石膏型を作る型屋へ納品した後も現場へ足を運び、その後の工程の確認をしながら微調整を繰り返してくれる。

金子さんは、細かい細工や模様が入る原型の腕がピカイチだ。
金子さんが原型を手掛けた商品は彫刻に奥深さや品がある。

他産地同様、ここ肥前地区(佐賀・長崎)も金子さんのような窯業技術者の継承者不足の問題を抱えている。

ものづくりへの愛が溢れた原型師、金子さんは次の世代へその思いと技術を引き継ぎたいと切望する職人さんの一人だ。

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