INTRO
先日終了した【2018 MARUHIRO POP UP STORE & EXHIBITION in 原宿】。

この難解複雑な形を「やきもので作る」って、そもそもよく考えたらすごいことなんです!!!
今回発表したBoris Tellegen×BARBARシリーズは、一見するとアーティストがセラミックで作った「アート作品」に見られるのかもしれませんが、波佐見焼の「工芸」としての技もあってこそ、この作品があるのです。
そもそも波佐見焼ってどうできてるの?
「地域内分業体制」をとる波佐見焼は、やきものの素材である陶石から土を作る人・やきものの形を成形するための型を作る人・その型から生地を作る人・やきものに色を付ける人・窯でやきものを焼く人・完成したものを売る人、、、と一つのやきものにはたくさんの人が関わっています。(写真のような感じです!)

DELTAさんの作品もこのような過程を経て作られているのですよ~!
その中でも今回のサラフチでは、VASEとTOYの生地(素焼きする前のもの)を制作してくださっている「村松生地屋」さんを訪れました。
村松生地屋さんにしかできない技がある
3代目の村松信輔さんは、現在33歳。高校を卒業してすぐにお父さんのもとで修業をし、村松生地屋を継ぎました。

職人の高齢化が深刻化しつつある波佐見焼産業。高齢化が進めば、できなくなることも増えてきます。
そのひとつが「重たい道具が持てなくなる」こと。

例えば、同じ形のやきものを量産するために必要な「型」と呼ばれる石膏は、大きなやきものを作ろうとすればするほど、そのサイズは大きさと重量が伴います。大の大人がようやく持ち上げられる重さぐらいになってしまうことも。

この型を持ち上げたり、ひっくり返したりという作業が年を重ねるほどつらいものになってしまうのですが、村松生地屋さんの強みは実はここにあります。
マルヒロの商品の中にはとても大きなサイズのものもありますが、どんなサイズになろうと制作に協力してくれるのが信輔さんなんです!
そして村松さんの強みは「大型の成形ができる」ことだけではありません。

このかたち、見たことある方もいるのではないでしょうか???
そう!展示会のときに完売したTOYの生地です!
生地とは、素焼きも絵付けもしてない、型から外したばかりのやわらかな土の状態のもの。
この生地を素焼きして水分をとばし、色を付け、釉薬をかけて窯で焼いたものがこんな風になるんです!

信輔さんはDELTAさんのVASEやTOYのように、「複雑難解なカタチ」のものも得意としています。では、その制作過程を見ていきましょ~!
パズルのような型

これが「型」とよばれるVASEやTOYを成形するためのものなのですが、、、
ここからどうやってあのかたちが生まれるのか、全く想像がつきません。
私も話を聞くだけでは理解できませんでした。「どうやって、あの凸凹の部分を取り出すのか」「VASEやTOYの空洞はどうやって生まれるのか」、想像のつかないことばかり!
ということで、実際に村松さんがVASEとTOYを制作するときの一連の流れを見せていただくことにしました!「鋳込み成形」と呼ばれる、型を使った成形を見ていきましょう!

まずは、型についているものを箒ではらい、表面についている鉄粉などを取り除きます。鉄粉がついてしまうと、やきものが焼きあがったときに鉄粉の部分だけ焦げてしまうからです。


パーツを組み立てて、台の上にセットし、、、

陶土を砕いた「土」に「水」と「ケイ酸ソーダ」を混ぜたものを型の中に流し込んでいきます。ちなみに写真の型はTOYで、上下さかさまになっています。

こんな感じ。


ドロドロの土を流し込んで10分くらい待ち、VASEやTOYの空洞の部分を作るために、型をひっくり返して土を外に出します。

今、もともとのTOYの状態に戻りました!

土を出し終えたら、土を出した口の部分を下の写真のように平面の上において閉じます。
この「閉じる」という技術も信輔さんならではのもの!!この方法を発見したことによって、中に空洞のあるやきものを型で作ることができるようになったんです!

しばらく待ったら、、、

石膏が土の水分を吸収して型から取り外すことができるんです!これを「脱型」と呼びます。


閉じたままになっている空洞の部分の蓋を切り取ったら、脱型は終了~!

「曲線」のないやきもの
型から生地を取り出したら、次は生地の表面を整えていきましょう!
ふつう、やきものは曲線の多いもので、釉薬がかかりやすいように角を丸くしたり、表面を滑らかにすることがもとめられます。
しかしながら、「直線的」なのがDELTA作品の特徴のひとつ。

脱型したばかりの生地はまだ柔らかく壊れやすいため、1日以上乾燥させます。こうすることで生地の強度は高まり、運んだり作業をしたりするときに壊れにくくなります。


乾燥させた生地の表面を削ったり、やすりでこすったりすることで直線を生み出していきます。
乾燥させて固くなったとはいえ、生地は繊細です。そのため少しの力で壊れる可能性があり、この作業はとても慎重にならざるをえません。
20本削るのに約3時間かかり、納期が迫っているときは深夜まで作業が及ぶこともあるそう。
DELTA作品はこれまでとは異なる「やきもの」であるため、「どこまで手を入れればいいのかまだ分からない」と信輔さんは言います。
脆さと「強さ」と

とはいえ、信輔さんの手で整えられたTOYが並べられてある光景は厳かで、信輔さんが抱える葛藤が、きっと「いい方向」に生地に現れているんだと感じたわたし。とても至らない言葉かもしれないのですが、「そのままその葛藤を抱え続けてほしい」とひそかに心の中で思ったのです。

波佐見町全体で高齢化が進み、後継ぎがいないために廃業を余儀なくされる窯元があるという実情の中、信輔さんのように日々試行錯誤を重ねることで「唯一無二の波佐見焼」を創り出し、日本だけではなく海外にも反響を及ぼすほどの波佐見焼を生み出している人もこの町にはいます。
「分業制」をとる波佐見焼産業。どこかひとつのパーツがかけてしまうと、その窯元だけではなく、やきもので成り立っている町全体までも崩れかねないという「脆さ」を抱えているのも事実ではありますが、この町のどこかで誰にも真似できないやきものを創りだす人がいる限り、きっと波佐見焼は続いていくのだと感じました。

DELTAさんといい、信輔さんといい、波佐見町には「類のない人」がすでにいたり、集まったりと、面白いモノ・コトが生まれる可能性を多分に孕んでいる町だと改めて実感。
信輔さんの技を見て感動した筆者は、職人さんとかマルヒロに関わりのある方々をもっと知りたいし、みなさんにも知ってほしい!とサラフチへの想いを新たにしたのでした。
「あのやきものの絵を描いてる人はどんな人?」とか「波佐見のここを知りたい!」とかリクエストも募集中です!サラフチがお答えします!